教科書の検定

日本の教科書検定制度は明治一九年の文部省令にさかのぼります。それまでの文明開花思想を背景とした教育は、天皇制国家思想による教育へとがあり、国の教育統制の重要な環として、検定制度が発足したのです。その後明治三六年小学校の教科書が、昭和一八年中学校教科書が国定化されて、学校教育のなかで最も重要な位置を占める教科書は完全な国家管理とされ、国の教育内容統制に重要な役割を果たしてきました。
戦後教育改革によって、戦前の教育制度は抜本的に改められ、国定教科書は姿を消すことになりました。昭和二二年制定の学校教育法は、小、中、高校においては、監督庁の検定若しくは認可を経た教科図書又は監督庁において、著作権を有する教科用図書を使用しなければならないと定め、戦後の教科書検定制度が発足しました。これに備え同二三年教科用図書検定規則(文部省令)が、また二四年には教科図書検定基準が告示されて、同年度から検定済教科書が使用されました。教科書検定権者につき当初教育委員会法は都道府県教委の権限事項としていましたが、終戦当初の用紙事情悪化のため暫定措置として、文部大臣が行うこととされました。しかし、昭和ニ八年の学校教育法改正により現行法となり、文部大臣が恒久的に検定権をもつこととなりました。

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法制上教科書は小、中、高校またはこれに準ずる学校において使用を義務づけられているから、検定の仕方いかんは、教育の内容と方向をきめるうえで重要な意味を持っています。教科書検定は昭和三〇年教科用図書検定審議会委員の交替を契機に大きく反動化しました。そして昭和三一年「教科書法案」の廃案を契概に行政措置で設置された教科書調査官制度と審議会委員の拡大検定基準の重要な一つである学習指導要領の告示化などによって教科書内容に対する検定は一段と強められるにいたります。審査の基準たる検定基準(告示)は、絶対条件(教育の目的との一致、教科の目標との一致、立場の公正)と必要条件(取扱内容、正確性、内容の選択等一〇項目)に分けられ、絶対条件の一つでも欠ければ不合格、必要条件を欠くものはその条件を満たすことを条件に合格とされます。検定処分に実質的影響力をもつのは教科書調査官であって、社会科などでは、調査官の社会観や匿史観によって合否の結論が左右される可能性が強い。検定手続での、反論書、意見書の提出は第二次教科書訴訟の高裁判決を受けて行われたものであるが、評定書、意見書の公表もなく、異議中高手続も不完全です。学習指導要領が検定基準の一つとされているため、記述の細部が審査の対象とされます。法制上重要な問題を起こすゆえんです。
検定の性格は、その実態、手続その他教育関係法規の解釈を前提として検討する必要があります。教科書の著作出版は、一般的に国民の教育の自由に支えられた出版の自由に属するとみるべきであり、検定は国民のもつ教科書の著作発行の自由を国が法令により禁止し特定の場合に解除(検定合格処分)する行為と解されます。検定は検定規則、検定基準によりなされますが、基準の絶対条件、必要条件は申請図書の内容、程度、表現、組織、配列、分量、造本など細部にわたってこまかく定めており、実際の検定審査では、著者の思想、信条、学説の当否にまでおよんでいるのが実態です。この傾向は、社会科教科書の検定にはとくに顕著です。したがって、教科書検定をたとえば、公職選挙における当選人の確定と同じように申請図書が検定基準に合致しているかどうかの確認的行為であるとみるのは妥当ではありません。また、いわゆる特許行為説とよばれる回書一般のなかから国が教科書として適合性のあるものを認定し、これに教科書としての特別の資格を付与するとする見解は、国の教育に対する介入の大幅な許容を前提としたものであって憲法、教育基本法制のもとでは妥当し難い。
教育は、国民の精神的な営みの領域に属します。国は国民の精神的諸活動の分野において中立でなければならないとするのが現代国家における基本的原理であり憲法もこの原理を承認しています。
教育は国民(子ども)の人権であり、国はこの人権の形成発展を促進する義務を負いますが、人権内容を規制すべき権限を持ちません。日本の公教育制度もこのような教育人権を保障するためこれにかかわる国民(子ども)の教育を受ける権利、教師の教育の自由を保障し国の役割を内容にかかわらない教育の条件整備行政においていると解されます。

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