教職員の身分と職務

教職員の身分といった場合に、それが意味するのは、教職員の社会的、法的地位のことです。学校で働く教職員の法的地位については、現行法上、多面的に規定されています。すなわち、まず第一に、公私立を問わず教職員は憲法二八条にいう勤労者、労働者である。教職員といえども自らの労働力を売り渡しその対価としての賃金によってのみ生活せざるをえない立場、従属労働関係下に立たされているのであるから、このことは紛れもありません。第二に教職員は、児童生徒の教育を掌る、いわゆる教育活動に従事することを主たる職務とする学校教育法上の職員であり教育職員免許法に定める相応の免許状を有することを必要とされる専門職性を有する教育職員です。第三に、教職員の大部分を占める公立学校の教職員は、地方公共団体の行政作用たる教育活動に従事する地方公共団体の公務員であり、地方公務員法の規定の適用を受ける法的地位にあります。なお公務員である教職員は、職務とその責任の特殊性にもとづき、一般公務員に対する特則を規定した教育公務員特例法の適用を受けることとされています。このように多面的な身分ないし法的地位を有する教職員をとりまいて生起する様々な社会的事象や問題の解決にあたって、法的処理をいかにするかは、法形式的にはさほど困難ではありません。教職員の法的地位を定めた各立法のカバーする側面から、一応の立法趣旨に沿った解釈が可能だからです。しかしながら、実際問題としてみるかぎり、ことはそう簡単ではありません。現実に教職員をとりまく社会的事象や問題は、一つの法領域に限定されて解決しうるものではなく、むしろここに掲げた二ないし三の法領域にまたがることのほうが一般的であるし、さらにいえば、各立法間で、それ自作法理論的整合に疑問を生ずるからにほかなりません。例えば、公立学校に勤務する教職員の争議行為を想起すればよい。教育公務員といえども労働基本権の権利主体として位置づけられることは憲法ニ八条の法意から否定しえないにもかかわらず、地公法および国公法では公務員の争議行為を全面、一律に禁止しておりこの法的連関性、合憲性について最高裁判決と学説との間で激しく論争されていることはつとに有名です。いずれにしても教職員の身分を考える場合に、現行法上における法的地位性を定めた各法条を無視することはできませんが、複数の法領域にまたがる問題の解決にあたっては、憲法および教育基本法の精神を生かした具体的合理性をもった法解釈をする必要があります。

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教職員は、国民の教育を受ける権利を実質的に保障するという社会的責務を負っています。そして、そのために教職員、とりわけ教員はなによりもその身分が保障されていなければなりません。ところでいうまでもなく教員は、その職務上、社会の一部の者の利益に奉仕するものであってはなりません。そこで、教育基本法は、教員は、「全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、その職務の遂行に努めなければならない」と定めることによって、国民全体に対し直接に責任をもって教育をなすべき必要性を説き、そのためには、まず教員の身分が尊重されなければならないと定めます。この教育基本法の教員の身分尊重規定のほかに、公務員たる教職員については、地公法、国公法および教育公務員特例法などによる身分保障規定があります。例えば、地公法二七条は、この法律もしくは条例で定める事由による場合でなければ、降任、免職、休職、降給および懲戒などその意に反する不利益な処分を受けることはないと定めさらにこの規定をうけて図法二八条および二九条で、分限および懲戒処分の要件を定めています。そして、不利益処分を受けた教職員は、任命権者に対し処分事由を記載した説明書の交付を請求し、人事委員会または公平委員会に不服申立をすることができるとされています。しかしながら、この地公法上の身分保障に関する定めは、あくまでも教職員の公務員としての法的地位の側面から規定されているだけのことで、これによって教職員の身分保障が十分なされていると考えるわけにはいきません。教職員の身分はすでに指摘したように、公務員としての法的地位にとどままらず、労働基本権の権利主体としての地位、学校教育法上の教育活動の担い手としての地位をあわせもつわけであるから、これら後二者の側面での身分保障を公務員法上の法益に照らしてのみ法的に処理することは、かかる側面での教職員の権利権を否定することにつながります。例えば人事問題についてみても、それは人事権者たる使用者、教育委員会との間の問題であり、基本的には労働関係としてとらえなければならない性質のものです。したがって、教職員を労働者としてとらえて対等な労使関係として労働法理の適用を基本的に考えなければならないのであるから、これを公務員関係の側面においてのみとらえ、公務員法上の法理でもって律することは法的に正しい筋道を適したことにはとうていなりません。
教職員、とりわけ教師の職務については、学校教育法で、「児童生徒の教育を掌る」こととされており、教育公務員特例法では、教育公務員は、他の一般公務員と異なり「教育を通じて国民全体に奉仕する」という特性を有しているとされています。これらの規定はいずれも教育という職務の特質を教職員の責任との関係でいいあらあしたものです。
ところで、教育という仕事の特質を語る場合、その基底におかれなければならないのは憲法および教育基本法における教育理念です。すなわち教育基本法は、民主的、文化的国家の建設と世界の平和と人類の福祉に貢献する憲法の理想の実現は根本的に教育の力によるべきことを示し、そのために、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない」ことを明言しています。この教育理念の考え方から、教育という仕事の特質は、科学、芸術、文化の継承と創造主体の育成および人格形成にあることがうかがい知れます。そして、かかる特質を有する教育にたずさわる教職員は、なによりも高い知識と技能についての専門的な教養が特別に必要とされ、その専門的力量から自主的、自律的に職務を遂行することが要請されています。そして他方、国民の教育を受ける権利、および学問の自由の保障の実質的実現と相まって、かかる職務を担う教員には、なによりも教育の内容や方法について職務上の自由が保障されていなければならないのです。具体的には、教育課程の編成、教科書、教材の選択、決定、成績評価などについての自由、職務遂行上の必要性から要請される研修権の確立など考えられますが、いずれも国の文教政策とのからまりで多くの問題が生じています。

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