教職員の政治活動の自由と労働基本権

政治活動の自由は、民主政治、社会の真の発展にとってかけがえのない市民の基本的人権の一環として、日本国憲法の国民主権ないし民主主義のたて前から当然に導き出されるものです。したがってこの基本的自由は、国民誰しもひとしく享有することを基本的に保障されていることは疑いありません。教職員といえども、教師である前に国民ないし市民であることから、基本的に政治活動の自由ないし権利の主体であることはいうまでもありません。しかしながら、この基本的自由も現行法上、様々な制限を受けています。
まず第一に、教職員が教育という仕事に従事することから政治活動の自由を制限する場合があります。教育基本法八条二項は、「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」と定め、国公私立を問わずに「法律で定める学校」すなわち学校教育法一条所定の学校での政治活動を制限しています。もっともこの条項は、「政治教育その他政治的活動」を禁止しているのであって、市民として教職員 が校外で行う政党活動を禁ずるものではありません。そして同条一項で、教育上、良識ある公民育成のために政治教育が必要であることを定めたこととの関連でみれば、二項のこの規定はそのための行きすぎを戒めるところに立法趣旨を読みとれるため、それ自体格別問題にはならないでしょう、さらに、義務教育諸学校における教育の政治的中立確保に関する臨時措置法三条は、「何人も、教育を利用し、特定の政党その他の政治団体の政治的勢力の伸長又は減退に資する目的をもって、学校教育法に規定する学校の職員を主たる構成員とする団体の組織又は活動を利用し、義務教育諸学校に勤務する教育職員に対し、これらの者が、義務教育諸学校の児童又は生徒に対して、特定の政党等を支持させ、又はこれに反対させる教育を行うことを教唆し、又はせん動してはならない」と定め、「偏向教育の是正」の名のもとに政治活動を制限しています。この法律自体、直接的には日教組の政治活動の封じ込めをねらったものであり、問題のある立法であるといえます。このほか、公職選挙法一三七条における教育者の地位利用による選挙運動禁止規定があります。

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第二に、公務員であるところから政治活動を制限する法令があります。まず公職選挙法によって、教育公務員は在職のまま公職の候補者となれない旨の立候補制限規定があります。この規定をめぐっては、教師の場合に格別在職 中の立候補によって弊害を考えられたいところから、教員に関するかぎり違憲の疑いが強いとの主張が多い。もっとも問題とされるのは、国公法一〇二条および人事院規則一四一七である。これらの規定は、ほとんどあらゆる政治活動を、勤務時間内外を問わず、公務員以外の者と共同して行う場合を含めて、全面的に禁ずるものです。しかも、教育公務員特例法二一条の三によって、地方公務員たる教職員にも適用されるとされています。当然のことながら法律学説の圧倒的多数はつとにその違憲性を指摘しますが、最高裁は、全逓猿払事件において、公務員の政治的行為の禁止は公務員を合む国民全体の共同利益擁護のための措置であって合憲であり、政治活動を罰則付きで禁止する国公法は憲法二I条こ一一条に反しないとしました。この判決に対する学界の反応は総じて批判的であるばかりか、マスコミにおいても人権無視の最高裁感覚をとらえて非常に厳しく批判されました。
教職員の労働基本権については、現行法上教職員であることをとらえてそれを制限する法律は存在しません。したがって少なくとも私立学校の教職員は、憲法二八条によって労働基本権が保障されていることは疑いありません。問題は、国公立学校における教職員(教育公務員)の労働基本権、とりわけここでは争議権が禁止されていることです。教育公務員が争議行為を禁止されているのは、国公法九八条二項、地公法三七条一項によるものであり、いわば公務員であるが故に争議権を否定されているのです。ところで公務員といえども、従属労働関係のもとに立だされている以上、労働基本権を保障した憲法二八条の権利主体たる勤労者(労働者)であることはこんにち異論をみません。したがって、問題は、憲法二八条との関係で、公務員法による争議権禁止規定が合憲性を有するかということになります。いうまでもなくこの問題は官公労働者すべてにわたる問題であり、今日にいたるまで、法学界、労働界、マスコミ界などにおいてその不当性を指摘する形で一貫して論じられてきたものです。しかるに、最高裁の判例では、今日、合憲論を維持しています。そこで、最高裁判例はいかなる論拠によって争議権禁止規定の合憲性を説いているかをまず概観してみましょう。
この点についての最初の最高裁判決は、国公法にかかわる国鉄弘前諮問区事件であり、ここでは、公務員は全体の奉仕者であること、および労働基本権も他の基本的人権同様、公共の福祉による制限に服すべきであることから、公務員の争議権は当然に禁止しうるとして、その合憲性を論じました。その後、三鷹事件国鉄桧山火事件でも同様の論理が維持されていきました。
これら最高裁判決の推移のなかで、争議権禁止規定の合憲治を支える論拠は、全体の奉仕者であり、公共の福祉であり、さらに代償措置です。しかしながら、これら合憲治の論拠は、いずれも直ちに合理性を有するとは考えられません。たとえば憲法一五条の全体の奉仕者は、公務員がその職務を遂行するうえでの心構えを、戦前の天皇のみへの奉仕者でないことを表明する形でいいあらあしたものであるにすぎず、公務員労働関係に適用されるものでないといえるでしょう。公共の福祉は、それ自体抽象的すぎるばかりか、労働基本権保障こそ公共の福祉の実現結果であるとするならば、そこに合理性を見出すことは困難です。さらに、代償措置は、争議権保障の歴史的性格に照らした場合、そもそも争議権行使にかわりうる代健投置などありえようはずがなく、労働者にとって争議権行使を合む労働基本権の保障だけが自らの生存を実現しうることを想うなら、そこに合理性を見出すことも困難であるといわなければならないでしょう。結局最高裁での典型的な合憲性維持の論理では、労働者たる教育公務員の争議権禁止規定を合憲規することはできないといわなければならないでしょう。

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