社会教育と住民

国民の学習権という用語や概念は最近広く理解され用いられるようになってきていますが、社会教育においては住民の学習権と表現されることが多い。なぜ、社会教育の場合に住民という用語が用いられるのかにはいくつかの理由があり、それなりの意義があります。それは、ひとつには、戦後教育改革の理念に導かれて社会教育法が制定され、社会教育活動の主体はあくまでも国民自身であり、成人をおもな対象とする教育活動である以上自主性と自見性が尊重されなければならない、という基本的理解がなされたことによります。それによって市町村自治体による振興を中核とし、それを都道府県および国が援助するという社会教育行政の組織原則がつくられていったのです。
ところで、法判定の前後には、大学開放事業等の試みがなされたものの、すでに法に先行して四六年から普及が奨励された公民館制度が定着をみるなかで、国民の日常生活と密着した形での社会教育活動が主流をなしていきました。
公民館制度の普及は、戦前的な、地域共同体的なつながりを基盤とした古い社会教育観を一部に残存させるもとにもなりましたが、住民が社会教育施設の運営や事業に直接参加する経験をひろげ、住民主体の社会教育活動という原則を理解する基盤が広くつくり出された点も注目されます。

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公民館活動は内容においても運営においても多様な形態をもちながら、戦後日本の社会教育の代表的な地位を占めてきた活動形態であって、そこでは、地域性の強いしかも日常生活に密着した学習活動が、年齢階層別に組織され、婦人学級、青年学級、高齢者学級などの形態が多くみられます。公民館施設をもたない自治体において、教育委員会などが開設する学級あるいは講座なども、ほぼ同様の形態を持っています。 しかしながら六〇年代後半以降、高度成長径済のもとでの国民生活に種々のひずみや矛盾が現れるに従い、テーマ別に系統的な学習をもとめる声の高まりに応じて、市民講座、大学講座等が試みられるにれ、地域性や日常住からは自由でしかも多様な学習活動が生み出されました。
そこには、開発や公害をめぐる種々の住民運動の発展の影響もみられ、地域問題、農業問題、地方自治問題などがとりあげられて住民の強い関心をよぶ例が生まれる一方、PTA問題、高校全入、増設運動、学力問題など、社会問題化した教育問題への関心の高まりがみられ、主婦層を中心とした広い層の住民が社会教育へ接近してきています。
いまや、社会教育と住民の関係は、単に住民こそ主人公である。あるいは、住民は様々な社会教育サービスをうける権利を有している。などという原理的原則的理解の段階にとどまることはできません。
図書館づくり運動や郷土博物館づくり運動が、児童の文化環境を豊かにする狙いをもちあるいはふるさとの自然を守り地場産業を育てるという観点からとりくまれている動向にも注目したい。また、自治体の社会教育予算の点検や、施設増設運動に取り組むなかで、地域の総合的な教育文化活動のあり方を構想し計画化しようという動きも生まれているし、社会教育委員や公民館運営審議会を注の理念を生かして運営させようという取り組みのかかから、地域の団体が代表を送りこむ運動を起こしている事例もあります。さらに、地方自治体の行政上、財政上の合理化のしわよせとして生ずる社会教育施設の統廃合、職員減員、予算削減などに対して、広範な市民が社会教育を守る運動を展開している事例もみられます。
これらの動きは、住民が、一定の教育、学習活動の経験のうえに、自らが地域の教育と文化を守り育てる主体になろうとする自覚をもち、それにふさわしい力量をもちはじめていることを示しています。これは、社会教育法が、国民教育権論の立場から解釈され運用されはじめていることにほかなりません。
もちろんここには、教科書裁判、学力テスト問題をめぐる教育推論の深まりの影響があるが、社会教育の分野においても、たえず行政上の指導の名による学習活動への干渉があり、住民の手による学習の自由を守る取り組みがあったことが見落されてはなりません。また、自治体労働運動の発展や住民の学習活動の発展に支えられて、社会教育職員が住民の学習権を保障するという自らの任務を自覚し、公民館や図書館をはじめとするそれぞれの職場で、社会教育の豊かな発展に力をつくしてきていた歩みもあります。
一般に社会教育と住民といわれる場合、住民をどうとらえるかについては議論が多い。代議制民主主義の原理から議会の意思や首長部局の意思を住民の意思としたり、遂に発言方や行動力の強い住民組織の意思をもって住民意思とすることは誤まりだとしても、次のような場合は、理論的にも実践的にも今後の検討が待たれている。例えば、一定の社会教育予算を、社公教育団体の活動経費補助にあてるか、誰もが利用できる施設費にあてるか、そのいずれが住民の意思を尊重したものであり、住民教育活動の振興に役立つかという問題、あるいは地区毎に配置される公民館の活動を、地元自治会などの運営にゆだねるのが住民直結の原則になるのか、専任職員の配置を原則として職員と住民の協議による運営にゆだぬるのが望ましいのかなどの問題がそれです。

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