文部科学省の権限

文部科学省の権限は、一般に文部省設置法五条に列記されていますが、教育条件整備をその基本的任務とすべき教育行政という観点から問題にする場合、大学、高等専門学校その他の教育研究機関の運営に対する指導、助言のほか、特に、文部科学大臣と都道府県教育委員会および市町村教育委員会、国と都道府県および市町村の相互の関係が重要です。これら、教育行政上の国の行政庁と地方自治体の行政庁との関係、あるいは国と地方自治体との関係について、文部省設置法は、文部科学省の権限として、地方公共団体および教育委員会、部道府県知事その他の地方公共団体の機関に対し、教育に関する行政の組織および運営について指導、助言および勧告を与えることを規定し、また、地方公共団体およびその機関の行う教育の事務に関する制度ならびに地方公務員たる教育職員に関する制度に関し、調査し、および企画することを規定し、そのほかさらに、地方公共団体の長または教育委員会に対し、教育の事務の管理および執行が法令の規定に違反し、または著しく適正を欠く場合において、その是正または改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることを規定しています。そして、文部省設置法五条一項各号に規定されている文部科学省の権限は、それが権力的であれ非権力的であれ、一般にすべてその行使については、法律または法律にもとづく命令にしたがってなされなければならず、その権限の行使にあたっては、法律または法律にもとづく命令に別段の定めがある場合を除いて、行政上および運営上の監督を行わないものとすると規定されています。
したがって、文部省は、文部省設置法のみによっては指導、助言、調査、措置要求などいかなる権限も具体的に行使することができず、かかる文部省の権限が文部科学大臣によって行使されるためには具体的な根拠法が必要であり、それは主要には地方教育行政の組織及び運営に関する法律第五章において規定されています。そして、こうした文部省の教育行政上の権限の行使の際に、憲法二三条、二六条および教育基本法において定められている学問の自由、教育の自由の保障という観点、および、憲法第八章に規定されている地方自治の保障という観点が尊重されなければならないのは当然ですが、この場合の指導原理として、第一に教育法規の法律主義および法律による教育行政の原則、第二に教育行政における地方自治の保障、第三に教育行政の一般行政からの独立の原則が重要です。

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地方自治法は、一般的、概括的な国の機関の自治体に対する教育行政上の専門、技術的な助言または勧告について、文部科学大臣が普通地方公共団体に対し、その担任する事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言もしくは勧告をし、またはその事務の運営その他の事項の合理化について情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができると規定し、さらにすすんで、地教行法は、教育行政事務処理の適正化のためにより積極的な国の機関による自治体への関与を明示して、文部科学大臣が都道府県または市町村に対し、教育に関する事務の適正な処理をはかるために、必要な指導、助言または援助をなす権限を有すると規定しています。
国の教育行政の独自性を示す行政権限として重視される指導、助言は、一般的にいって、非権力的かつ専門、技術的な権限であり、もとより法的拘束力を有するものではありません。しかし、この点で、教育基本法一〇条一項にいう教育に対する「不当な支配」に関連して、教育行政について、権力的、拘束的な関与ならば違法であり、非権力的、非拘束的な指導、助言ならば適法であるというごとき、教育内容とのかかわりにおけるその適法、違法論には問題があります。つまり、事実上存在する文部科学大臣、教育委員会、校長、教頭などの行政上の上下関係を前提とするかぎり、教育内容に対する教育行政機関による関与は、いかに非権力的手段である指導、助言であるとしても、それが一方的、職権的に行われるときには、事実上拘束的なものになり、場合によっては教育に対する「不当な支配」にならないとはいえません。したがって、こうした指道、助言は、それが憲法、教育基本法に適合的なものであるためには、こと教育内容、教育方法、教育価評に関するかぎり、きわめて慎重かつ技術的なものであることを必要とします。
文部科学大臣の地方教育行政全般に対する措置要求権について、地教行法は、文部科学大臣が、地方公共団体の長または教育委員会の教育事務の管理、執行が違法または著しく不適正で、教育本来の目的達成を阻害しているものがあると認めるときに、その長または教育委員会に対し、その事務の管理、執行の是正または改善のために必要な措置を講ずべきことを求めることができると規定しています。
本条項における文部科学大臣の措置要求権は、内閣総理大臣が地方公共団体またはその長に対して不当な事務処理の是正のために措置要求をなしうる旨定めた地方自治法二四六条の二の例外規定として、国の官庁たる文部科学大臣に教育行政事務の特殊性からする特殊な地位と責任を認めたものであり、措置要求ができる場合の要件の多義的不確定概念とあいまって、一般行政事務以上に、地方教育行政に対する中央統制の端的な表現がうかがわれます。なお、本条項にいう措置要求は、罰則規定の不存在や市町村教育委員会の異議申立権に明らかなごとく、広義における「勧告」の一種で、必ずしも拘束的なものではなく、一般には相手方に対して反省を求める度合が通常の「勧告」よりも強く、事実上高い実効性が期待されているものと解されます。
文部科学大臣が諸権限を行使する前提として行う調査には二つの方法があります。第一は、地教行法に定められている指導、助言、援助、連絡、調整、および措置要求の権限行使のために、文部科学大臣が自ら調査を行うかまたは文部科学大臣が都道府県教育委員会に指定事項の調査を行わせる場合です。本条の調査の法的性質は、いわゆる監査、検閲などの権力的手段によるものとは異たって、非権力的行政の一部をなすものであり、被調査者の自主的協力を前提として行われるべきものです。
第二は、地方公共団体の長または教育委員会が主体となって行った調査、報告等の提出を文部科学大臣が求める場合です。本条項にいう調査、報告等の提出要求権は、文部大臣の地方公共団体の長または教育委員会に対するものである点において、同一行政主体内部における上級行政機関の下級行政機関に対する関係とは異なって、行政組織法上、法律の根拠を必要とし、また、内容上、教育行政における地方自治の保障の観点からする法律上の限界があります。なお、本条項の調査については、いわゆる全国一斉学力調査において、文部省による学テ実施の適法性、違法性をめぐってはげしく争われてきました。
地教行法は、教育委員会が、国の機関として管理、執行する教育行政事務について、都道府県にあっては主務大臣、市町村にあっては都道府県教育委員会および主務大臣の指揮監督を受けると規定しています。
本条は、地方自治法一五〇条の読み替え規定ですが、地方自治法上の指揮監督権の法的性質については、同一行政主体内部における上級行政観閲の下級行政機関に対する指揮監督と、憲法上の地方自治を保障された地方公共団体の長に対する国の機関支社事務についての国の行政庁のそれとを区別し、後者の指揮監督が一種の行政指導的性格のものと解する見解が有力です。したがって、教育委員会が管理、執行する国の教育行政上の機関委任事務における指揮監督も、法的には直接教育委員会を拘束できるものではありません。

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