親権者の権利と義務

一般に、父母が未成年の子どもに対してもつ身分上および財産上の監督保護を内容とする権利、義務を総称して親権とよびます。民法は親権の内容について、第四編第四章第二節に「親権の効力」と題して定めており、それによれば、子どもを監護および教育する権利、義務、子の居所を指定する権利、必要な範囲内で子を懲戒する権利、子が職業を営むことを許可する権利、子の財産を管理するとともにその財産に関する法律行為を代表する権利が親権の内容となります。これは、一般に、身分上の監督保護と財産上の監督保護に大別され、前者には八二〇〜三条、後者には八二四条が属するとされています。
親権の内容のうち、身分上の監督保護に属するものが教育法に直接かかわりをもつということができますが、身分上の監督保護に属する規定のうち八二〇条が親権の中核をなすものであると解されることから、親権についての以下の叙述は八二〇条を中心に展開します。
民法八二〇条は、「親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」と定めています。これは、旧民法八七九条が「親権ヲ行フ父又ハ母ハ未成年ノ子ノ監護及ヒ教育ヲ為ス権利ヲ有シ義務ヲ負フ」と定めるのと比較して、文言上はさほどの変化がみられません。
そのため、「その社会的な基盤に根強く残存する旧法的な観念が作用している限り、今なお旧法はその意味で生きているのみならず、新法そのものの中にさえも、立法過程における妥協的配慮の故に、旧法的な観念が形成を変えて働き得る余地が残されている」ことになりますが、この両規定における親の教育権の性格の違いについては、民法学者の手により、一定の解決示みられています。すなわち、旧民法下においては、家族制度的色彩が濃厚であったことから、親の教育権は親の子に対する身分上の支配権としての性格が強かったのに比べて、新民法下においては、家族制度を廃止して親は子どもの福祉を守るべきものと位置づけられていることから、親の教有権は子どもの権利を実現するために第一次的に与えられた義務としての性格が強いとされているのです。
このように、民法八二〇条の親の教育権が義務としての性格を有することになれば、次に、その義務は誰に対するものであるかが問題になります。これについては諸説があり、それを大別すれば、子に対する純然たる私法上の義務であるとする説、子および社会にたいする義務とする説、社会ないし国家にたいする義務とする説、義務の相手方を直接に問わない説、または対立的に子の権利が確立されるほどはっきりした義務ではないとする説となります。

スポンサーリンク

親子関係は未来自然の関係にあり、そのことから子を教育する職分が親に付着するのであり、しかも他方で、子どもの権利を実現するために親権が行使されなければならないと解されることよりして、子に対する純然たる私法上の義務であるとする説が妥当だろうと思われます。もっとも親の教育権は民法上のものばかりではなく、憲法上も保障されているわけであるからして、この問題は、両者を総合的に検討することにより明らかにされなければならないでしょう。
民法八二〇条の親の教有権が子どもの権利を実現するための義務としての性格を強く有するものである以上、この義務を履行しないか、あるいは親権を濫用することによって、子どもに有害な状態が生みだされている場合には、それに対処する、すなわち親の教育権を制約することによって、子どもの権利の実現がはかられなければなりません。この目的のもとに、実定法上、幾つかの定めがおかれているといえます。
民法の規定は次のようになっています。「父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その親権の喪失を宣告することができます」。「親権を行う父又は母が、管理が失当であったことによってその子の財産を危くしたときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その管理権の喪失を宣告することができる」。「親権を行う父又は母は、やかを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を辞することができる」。
親の教育権に対する制約については、民法ばかりではなく、さらに児童福祉法、学校教育法などでも定めています。すなわち、児童福祉法では、「児童を心身ともに健やかに育成する責任」を国および地方公共団体とならんで児童の保護者(親権者)に負わせ、保護者がその児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他監護に不適当である場合に対処して児童福祉の措置を定め、経済的理由等により児童を養育しがたい保護者にたいして児童相談所等への相談義務を課し、児童福祉施設入所中の児童については親権者のある場合でも施設の長が監護、教育および懲戒について必要な措置をとりうることを定め、また学校教育法では、子女の保護者(親権者)にたいして普通教育を受けさせる義務を課しているごとくです。
このように、親の教育権にたいする制約については、民法ばかりではなく、児童福祉法、学校教育法などにも定めがあるということは、親の教育権について定める民法八二〇条は、もはや民法の範囲内でのみとらえるのではなく、教育制度に固有の法たる裁育法のなかに位置づけて検討するべきものであるということを示しているといいえます。

教育内容の意義/ 教育課程/ 教科書の検定/ 教科書の採択/ 教材と教具/ 教育評価/ 教職員の意義と範囲/ 教職員の資格と免許/ 教員養成/ 教職員の身分と職務/ 教職員の政治活動の自由と労働基本権/ 学校施設の意義/ 学校事故の意義/ 学校事故と補償/ 社会教育の意義/ 社会教育と住民/ 社会教育施設/ 社会教育職員/ 社会教育関係団体/ 教育と自治体/ 国と自治体との関係/ 都道府県と市町村/ 自治体と教育委員会/ 私学や保育の関連行政機関/ 教育委員会制度の意義/ 教育委員会の組織と権限/ 学校管理規則/ 都道府県教育委員会と市町村教育委員会/ 教育長の地位と権限/ 指導主事の地位と権限/ 中央教育行政の意義/ 国の教育行政機関/ 文部科学省の権限/ 教育費の内容/ 教育費の財源/ 子どもと親権者の地位/ 親権者の権利と義務/ 両親のいない子どもの教育権者/ 少年法の目的と内容/ 学習権と保護処分/ 少年法の法制/ 児童憲章と教育法/ 教育奨励法制/ 障がい者教育/ 教育労働と教育法/ 勤労青年教育と教育法/ 企業内教育と教育法/ 安全通学の保障/ 信教の自由と宗教教育/ 私立学校と宗教教育/

       copyrght(c).子育てと育児.all rights reserved

スポンサーリンク