児童憲章と教育法

児童憲章は、短い前文と総則三個条および本文一二個条より構成されています。それは、国会が制定した法律ではないが、自らその前文で述べているように、「日本国憲法の精神にしたがい、犯意に対する正しい観念を確立し、すべての児童の幸福をはかるために」定められたものです。つまり、この憲章は、憲法の内容を明確にし、それを具体化するという目的をもって定められたのです。憲法の精神に従う正しい児童観とは、子どもが人権保障の主体であることを承認するそれであり、基本的には、憲章の総則一条から三条までに定められているように、すべての子どもが、ひとしく「人として尊ばれ」、「社会の一員として重んぜられ」、「よい環境のなかで育てられる」ことを承認する児童観です。換言すれば、子どももまた国民として、ひとしく主権者であり、個人として尊重され、生命、自由および幸福追求の権利あるいは生存権、教育を受ける権利等の基本的人権を享有するということです。
以上のような児童観にもとづきつつ、憲章は、一二個条の本文で子どもの権利を具体的に定めます。ただし、憲章は「権利」という語の使用を避けており、ここに憲章の一つの弱点がみられます。本文の一条は、「すべて児童は、心身ともに健やかにうまれ、育てられ、その生活を保障される」であり、家庭生活、衣食住等の生存、生活に関する権利の規定が続きます。四茶から八条、一一条等には子どもの教育を受ける権利、学習権に関する具体的内容が定められています。その他生活環境や虐待酷使放任の禁止に関する規定があり、「すべての児童は、愛とまことによって結ばれ、よい国民として人類の平和と文化に貢献するように、みちびかれる」と定める一二条で締めくられています。

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児童憲章は、法令の形式をとらないので、それ自身、法的効力をもつものではありません。しばしば、世論の結晶に似たもの、国民により作られた社会協約と称してよいもの、道徳綱領のようなものなどといわれるが、それは、ひとまず、国民的約束として子どもにかかわるすべての国民と関係諸団体、諸機関があらゆる場面で、あらゆる場所で、守るべき子どもの権利保障のための行動基準としての性格をもっているということができます。
憲章自身が法的効力をもたないのは、それが法令の形式をとらないからであることはここに述べました。しかし、「憲章は、権利規定としてすでに存在する具体的な法律に合まれている精神(子どもの権利思想)の啓蒙的宣言であり、先行諸法規に分散的に存在する理念の総合的な宣言」であるから、その「諸規定は、憲章そのものによってではないが、その先行法規によって、拘束力をもち、憲章の精神は、それらの法規によって実現が強制されなければならないのであり、この意味において、実質的に法的拘束力をもっているともいえるのです」。具体的にみれば、例えば、憲章本文一条は、児童福祉法一条一項「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるように努めなければならない」、同条二項「すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない」と実質的に同じ内容です。また、同法二条には、憲章には明示的に書かれていない児童育成に関する国、地方公共団体の責任も明記されています。憲章のその他の条文について明示は避けるが、ここと同様のことが指摘でき、憲章は、憲法、教育基本法、児童福祉法、少年法、労働基準法等の子どもの権利に関する規定をもつ諸法令と実質的に重複するところが多く、これらの諸法令の内容を具体的に明らかにしたという側面をもっているということができます。それ故に、憲章が法令の形式をとらないことを理由にして、それは単なる道徳的、倫理的規範にすぎないなどということは必ずしも妥当ではありません。
以上のような児童憲章を子どもの学習権、成長発達権の保障という観点からみれば、人権保障の主体たる子どもの権利が総合的に確認、宣言されていることが重要です。とりわけ、子どもの健やかな生活およびそれを保障するにふさわしい生活条件と環境の保障、つまり、子どもの福祉の保障が教育の保障と一体不可分の関係にあるものととらえられている点に注目してよいでしょう。このことは、近時、教育と福祉の統一的保障の問題として認識されているが、つとに、児童憲章でそのようなとらえ方がなされていました。
子どもの学習権、成長発達権の保障のためには、子どもが生活するあらゆる場所(家庭、地域、学校等)における生活が健康で文化的に営なまれることが第一次的に要請され、この子どもの生存権、生活権保障を基盤として学習権、成長発達権はなりたちます。このように、生存権と教育を受ける権利とが密接に関係することが承認できるならば、子どもの福祉に関する権利および法制は、教育に関する権利および法制と緊密に関係づけて理解することが必要となります。すなわち、教育法と子どもの福祉を中心とした社会福祉法とを有機的に関係づけてとらえていくことが、子どもの成長発達と真の幸福の保障のために欠かせないのです。以上のように考えれば、児童憲章の法的な意味は、より重要かつ積極的なものとなるでしょう。

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