私立学校と宗教教育

戦前の私学法制のもとでは、私立学校は、国家の専属事業としての学校教育を、特許を得て行う代替的、補助的機関であるとされていました。現行法制下の私立学校についても、この性質はかわらないとする見解があります。しかしながら、憲法、教育基本法が学校教育の制度理念に根本的な転換をもたらし、国民に教育の自由を保障し、また、教育を基本的に国民が自律的に行うところの社会的営為であるとした現行法制のもとでは、学校教育はもはや国家に専属する事業ではなく、国民に私立学校を設置、組織、運営する自由が原則的に保障されていると解されるべきです。したがって、私立学校は、法人による自主的経営のもとに、各自の建学の精神と、個性的な学風ないし教育方針とをもって自由な教育を行い、それを通して国民の多様な教育要求に応えるべきものとされます。現行私立学校法も、同法の目的として私立学校の自主性の尊重を公共性の向上と併せて掲げるほか、私立学校独自の事業に対する所轄庁の権限を限定し、また、所轄庁が条項の権限を行使するにあたっては、それに先立って私立学校審議会等に諮問すべきことを義務づけています。

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現行教育法制は、私立学校も、国公立学校と同じく、公の性質を有するものであるとの見地に立っています。この公共性は、国家の事業を代行することによって私立学校に認められるものではなく、私立学校が国民の教育を受ける権利の保障という社会的要請に応えて組織されている公教育制度の一環であるところから生じているものと解されます。その意味では、これは、国家的公共性であるより社会的公共性であるといえます。現行法においては、私立学校設置主体は原則として特別法人たる学校法人にかぎられ、その組織および運営につき所轄庁の監督を受け、また、私立学校の設置管理に対しては、学校教育関係法令が国公立学校と同様に適用される、等のことを通して私学の公共性の確保がはかられてます。
このように、私学設置の自由は、設置者の教育の自由にもとづくものであるとともに、国民の教育権保障という公共性の確保のなかにこそ、その積極的根拠をもっといえます。したがって、私学の自主性は、教育行政からの原則的な自立の保障を要請するものであるとともに、児童、生徒および学生の、学問、思想、信教、表現等の自由を含む教育権の保障という側からの制約を受けることになります。
以上に概観した私学教育の自由は、当然に、私立学校が宗教教育を行うことの自由をも包含しています。また、これは、先に説かれているとおり、信教の自由からも導かれます。このようにして、私学教育の独自性を形づくる重要な一要素であるところの宗教教育の自由は、憲法上の保障を受けているのです。現行法令上も、教育基本法九条二項が、宗教教育の禁止を「国及び地方公共団体が設置する学校」に限定し、学校法人が設置する学校たる私立学校については、これが特定の宗教のための宗教教育を実現することを妨げていず、また、学校教育法施行規則において「私立の小学校の教育課程を編成する場合は、宗教を加えることができる」と規定されています。
同時に、私立学校の宗教教育の自由は、次のような制約を受けるものと思われます。そのひとつは、先にも触れた、児童、生徒および学生の教育を受ける権利による制約です。これは、宗教教育を内容とする授業で児童等が欠席する。ないし親が児童等を欠席させる自由があるか否かという問題を解明する手がかりにもなりうると思われます。すなわち、この問題について、学則を承認して入学した以上欠席の自由はないとして出席強制を無制限に肯定したり、また逆に、憲法二〇条二項の「宗教上の行為、祝典、儀式又は行事」への参加を強制することを禁じた規定を根拠にして、これを一律に否定するのは、いずれも必ずしも妥当でなく、問題となる宗教教育の内容、出席強制の形態、および、とりわけこれの対象たる児童等の発達段階に即して、教育を受ける権利の側から個別的に検討し、それを通して出席強制の限界を設定することが必要と思われるのです。
このことからすれば、学校教育法施行規別二四条二項、および五五条の、私立小学校、および中学校の教育課程を、宗教を加えて編成した場合には「宗教をもって道徳に代えることができる」とした規定は、問題をはらんでいるようにみえます。すなわち、この規定における宗教と道徳の置き換えは、両者が密接に関連し合っているとはいえ本質的に別のものであることに照らすなら、安易にすぎると思われることのほか、宗教を道徳にかえることによって、事実上、宗教教育への出席を一途に強制する結果になる点でも、疑問とせざるをえないのです。
もうひとつの制約は、教育基本法九条一項にかかわるものです。私立学校において特定の宗教のための宗教教育が行われる場合でも、この条項にいう「宗教に関する寛容の態度」、すなわち、他の宗教の教義および信仰をも尊重し、また、無宗教あるいは反宗教の立場を寛く許容し、これらを非難、無視等をしない態度が前提とされるのであるといわなければなりません。

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